暮らしに命を宿らせる。SANU Regenerative Club vol.2 「Soil Cycle」イベントレポート
「リジェネラティブ」とは、サステナブルを超え、より良い環境を生み出すこと。その思想を体現する方をゲストに招き、彼らの知恵と視点を学ぶプログラムSANU Regenerative Club。
第二弾イベントとなる「Soil Cycle|暮らしに命を宿らせる」では、パーマカルチャーデザイナーの四井真治さんと農家の石毛康高さんを迎えました。
「地球再生型」の暮らしを学び、夏野菜の収穫をする中で見えてきた、環境を豊かにする暮らしとは。参加者のリアルな気づきと学びを、レポート形式でお届けします。
開催日時:2025年7月29日
開催場所:SANU 2nd Home 八ヶ岳2nd・ソイルデザイン・crazyfarm
ナビゲーター:四井真治(パーマカルチャーデザイナー)、石毛康高(農家)
目次
1. 人間は環境を豊かにできる存在
2. 野菜づくりは土づくり
3. 暮らしの中でできること
4. 四井さん・石毛さんにとってリジェネラティブとは?
人間は環境を豊かにできる存在
夏晴れの午後、四井さんのご自宅兼暮らしの研究所「ソイルデザイン」に参加者が集い、地球再生型の暮らしについての講義からイベントがはじまりました。
「私は2007年にこの場所に移住してきました。森に住むということは、ある意味自然破壊ですよね。だから私たちは、たとえ自然に影響を与えるとしても、逆に生き物がふえるような暮らしを心がけてきました」
「そもそも、ここは雑木林だからたくさんの生き物がいるだろうと期待していたのですが、最初は蛇もネズミもいませんでした。しかし、暮らしているうちに徐々に変化が起きました。普通はキッチンからの排水を下水道に流しますが、ここではバイオジオフィルターという水草や微生物で浄化する水路に排水を流し込み、その先に池をつくったのです。すると、やがて野生の植物も増えて、昆虫や蛇が現れたんです」
「蛇が現れたということは、肉食動物が住める環境になり、それを支える多くの生き物がいるということです。私たちの生活排水から出る栄養分によって、生き物が住める環境が生まれたことに気付いたとき、人間は環境を壊すのではなく、むしろ豊かにできる存在なのではないかと考えました」
四井さんはキッチンで出た生ごみも無駄にせず、鶏の餌にして、残ったものは落ち葉と混ぜて堆肥にします。それが畑の健康な土壌をつくり、美味しい野菜を育て再びキッチンへと戻ってきます。そんな循環型の暮らしは楽しさだけではなく、他の生き物にとっても重要な意味を持つと指摘します。
「日本で自然に1cmの土ができるには100年かかると言われていますが、ここで暮らしていると1年で30cmの土をつくることもできます。たった1cmの土に数億の微生物が存在し、それが土壌やそこで暮らす動植物に与えるプラスの影響を考えると、人間がこの地球で与えられた役割の1つは土をつくることなのではないかと考えています」
野菜づくりは土づくり
講義のあとは、農家の石毛さんが営むcrazyfarmへ移動。
参加者はふかふかの土の上でミニトマト、ナス、ピーマンなどの夏野菜を収穫していきます。
「オクラを生で食べると、こんなにおいしいなんて知らなかった!」
子どもたちはもちろん、大人も感動の連続で畑に笑顔があふれます。
おいしさの理由を尋ねると、石毛さんは土づくりの重要性を説明します。
「この畑は一般的に使用される化学肥料ではなく、ライ麦などの緑肥を活用して微生物の力で土を育てています。化学肥料を全否定するわけではないのですが、どうしても使い続けると土壌が衰えてしまいます。一方で、地道に微生物の力で土をつくっていると健康な土壌ができるので、今年のような暑さでも元気に野菜が育ってくれるんです」
暮らしの中でできること
採れたての野菜をオーブンや焚き火でシンプルにグリルして、再びその味に驚きの声が寄せられました。
「生もフレッシュで美味しかったけど、加熱したら甘味がすごい。特にナスがとろとろで今まで食べた中で1番美味しいです!」
そのまま火を囲んで、感想と学びを互いにシェアする時間へ。
「子どもの食育のために参加したつもりでしたが、四井さんと石毛さんのお話は大人のための理科や社会の授業のようで、気付けば私の方が魅了されていました」
「子どもたちの世代も同じように豊かに暮らせるのだろうか?と考えることはありますが、結局何をすればいいのか分かりませんでした。でも今回のイベントを通して、日々の暮らしでもできることはあると感じたので実践してみます」
今後の暮らしへの期待感に包まれながら、イベントは幕を閉じました。
四井さん・石毛さんにとってリジェネラティブとは?
「ここでの暮らしそのものです。命の仕組みの延長線上に暮らしをつくることによって、人間が生きることが環境を壊すことではなく、再生することにつながると考えています」
「特別なことをする必要はないと思います。自然の力を活かすために、よく観察して畑の上でできることを実践しているだけです。皆さんも明日家に帰ったら、まずは種をまくことからはじめてみてはいかがでしょうか」
実は、今回会場となったSANU 2nd Home 八ヶ岳2ndにも、四井さん監修のもと生ごみを入れるコンポストを設置しています。そこでできた堆肥は石毛さんの畑で活用されており、このつながりが今回のイベント開催のきっかけとなりました。
イベント中にコンポストを利用された参加者からは、「自分でもできそうなので、これをきっかけに自宅でもはじめてみようと思います」という前向きな声も。
参加者の暮らしに変化の種がまかれるような、命の循環を全身で感じた1日となりました。
Text : Sumito Ueno(SANU)
Photo,Video : Yoichi Onoda(Seehoot)