森と湖に包まれて。蓼科で過ごす、家族じかん〈後編〉

今回の舞台は、長野県・蓼科。2日目の朝から、旅の続きをお届けします。

※〈前編〉はこちら

 

目次

  1. 2日目-日常の延長に、余白が生まれる朝

    • 朝ごはんのメニュー

  2. 八ヶ岳の自然と歴史にふれる旅
    みちくさスポット

  3. 最後の夜

    • 夜ごはんのメニュー

  4. 3日目-蓼科の食文化と出会う
    みちくさスポット

    • 千年豆腐(小林豆腐工房)- Google Map

    • 蓼科ハーバルノート・シンプルズ- Google Map

  5. 旅のふりかえり

 

【2日目】日常の延長に、余白が生まれる朝

キャビンの天窓から、ほのかに朝の光が差し込んでくる。時計を見ると、まだ5時半。明け方の白む空に目を細めながら、そっと布団を抜け出す。

隣で眠る妻と息子の寝息を確認して、ひとりテーブルへ。日頃できていなかった頭の整理をはじめてみた。考えたかったこと、抱えている仕事、これからどんな暮らしをしていきたいか、思いついたことをノートに書き出してみる。

家事から解放された、ちょっとしたご褒美のような時間だ。ルーティンから少しだけ距離をとることで、心に余白が生まれていくのを感じる。

 

7:00 パンと香りと、シンプルな朝食

この日の朝ごはんは、昨日〈KALPA〉で買っておいたパンをメインに。カンパーニュは香ばしく焼き直して、ジャムやバターを添える。ミネストローネも温め直した。まだ少し眠たい頭に、コーヒーの香りが沁みていく。

外の景色を眺めながらの朝食は、それだけでごちそうだ。

 

朝ごはんのメニュー

  • 「KALPA」のカンパーニュとカルダモンロール

  • 地元産のサラダ

  • 平飼い卵のスクランブルエッグ

  • 昨日作ったミネストローネ

  • 地元名産のルバーブジャム

  • SANU 2nd Homeに常備してあるONIBUS COFFEEのコーヒー

 

8:30 ひとつ屋根の下の自由時間

普段の朝は、家事に保育園の送りにと、めまぐるしく過ぎていく。
でも、SANU 2nd Homeで迎える朝は、なぜか時間の流れがゆるやかだった。

朝食を終えたあと、妻はソファに腰かけて、コーヒーを片手に〈SANU Journal〉をぱらぱらとめくっている。その横では、息子が大好きな「おさるのジョージ」に夢中。

同じ空間にいながら、「それぞれが好きなこと」に没頭できる。 そんな絶妙な距離感が、このキャビンにはある。さりげない設計が、家族の時間をやさしく支えてくれていることに、改めて気づかされる。

 

9:00 北八ヶ岳ロープウェイで、天空の坪庭へ

さて、いつまでもキャビンにこもってばかりもいられない。
この旅の前から、乗り物好きの息子と約束していた場所があった。それが〈北八ヶ岳ロープウェイ〉だ。

キャビンから車でおよそ10分。100人乗りの大型ロープウェイで、標高1,771mの山麓駅から2,237mの坪庭駅まで、約7分間の空中散歩を楽しむことができるのだ。

ぐんぐんと標高を上げるロープウェイからの景色に興奮をしながら山頂の坪庭駅にあっという間に到着。空気がひんやりと冷たく、酸素も心なしか少し薄いような気がする。

ロープウェイを降りると、〈坪庭自然園〉と名づけられた散策路が広がっている。溶岩がむき出しのゴツゴツとした地形に、苔や高山植物が静かに根づいている。そんな風景を眺めていると、まるで「地球そのもの」の姿を目の当たりにしているようで、言葉にならない畏怖の念がこみ上げてくる。

妻は、ここでしか出会えない自然と対峙できたことに感動していた。
その一方で、自然の迫力を本能的に察したのか、息子は「もうそろそろ降りようか」と引き返そうとする。

そこで頼りにしたのが、山麓駅の売店で見かけた〈コケモモのソフトクリーム〉。その一言を誘い文句に、なんとか最後まで歩ききってもらった。

 

念願のご褒美タイム

帰りのロープウェイは、すっかり慣れた様子。散策路を走破したことで自信をつけたのか、それともソフトクリームが恋しいだけか、息子は終始ごきげんだった。

山麓駅に到着するやいなや、売店へ一直線。ご対面となった〈コケモモのソフトクリーム〉は、しっかりとした酸味があって、蒸し暑い季節にはぴったりの味だった。

 

縄文のエネルギーにふれる、尖石縄文考古館へ

お昼ごはんまでは、まだ少し時間がある。そこで向かったのは、茅野・蓼科エリアで出土した縄文土器を数多く収蔵する〈尖石縄文考古館〉だ。

蓼科高原から茅野市街へと車を走らせていると、道ばたにふいっと現れたのは鹿の群れ。まるで街角の野良猫のように、のんびりと佇むその姿に、こちらまで和やかな気持ちになる。

館内に足を踏み入れると、ずらりと並ぶ縄文土器の迫力に思わず息をのむ。なかでも「縄文のビーナス」と「仮面の女神」の存在感は、まさに圧巻。歴史や縄文文化が好きな人なら、一度は訪れておきたい場所だ。

およそ1万6,000年前から2,300年前まで続いた縄文時代。その壮大な時間の流れが、いまにつながっていることを思うと、土器や土偶を眺める眼差しも自然と深くなる。

……と、時空を超えた妄想にどっぷり浸っていたところで、「お昼、行きたい!」と息子からの限界サイン。 名残惜しさを抱えながら、昼食をとるため、館をあとにした。

 

12:00 いのちの循環にふれる、ヴィーガンランチ

お昼は、ご夫婦で営むヴィーガン食堂〈蓼科食堂やまのいき あめのこえ〉へ。

注文を終えて店内を見回すと、「種の図書館」の棚が目に留まる。野菜を育てるだけでなく、種を採り、また次のいのちへつなげていく——。そんな営みに、店主ご夫婦の哲学が垣間見えて、思わず胸が熱くなった。

棚に並ぶガラス瓶のなかには、自家採種した種だけでなく、どうやら常連さんからのお裾分けらしきものも混ざっているらしい。実は僕も、自家採種には並々ならぬ思い入れがある。そこで、黄人参とフェンネルの種を“お借り”することにした。今シーズン育てて、採れた種を“お返し”に、またここを訪れよう。そう心に決めた。

まさしく、いのちの循環の場なのだな——と感心していると、いつの間にか定食が配膳されていた。

注文したのは、日替わりのお惣菜にご飯、汁物がついた〈あめのこえ定食〉。野菜は、自然栽培や無農薬・無化学肥料で育てられたものばかり。子ども用のハーフサイズがあるのも、子連れ旅にはありがたい。
どのお惣菜にも、野菜のうまみがじんわりと染み込み、体の内側から静かに整っていく感じがする。
なかでも絶品だったのが、お豆腐の煮浸し。聞けば、蓼科にある〈千年豆腐〉のものを使っているとのことだった。

 

みちくさスポット

📍北八ヶ岳ロープウェイ - Google Map

八ヶ岳の北端に位置する北横岳と縞枯山の間に架かるロープウェイ。山頂にはスニーカーで散策可能な坪庭自然園があり季節ごとに高山植物や紅葉を楽しむことができる。登山が好きな方は足を伸ばして周辺の登山コースのトレッキングもおすすめ。



📍尖石縄文考古館 - Google Map

八ヶ岳山麓・霧ヶ峰山麓にある縄文時代の遺跡から発掘された数多くの遺跡や資料を展示する施設。国宝土偶の「縄文のビーナス」と「仮面の女神」はじっくりと鑑賞したい。縄文体験コーナーやミュージアムショップ、喫茶室もあり。



📍蓼科食堂やまのいきあめのこえ- Google Map

2022年に元精密機械の工場をリノベーションしオープンしたヴィーガン食堂。2種類の定食とグルテン・シュガーフリーのデザートやドリンクなどを提供する。八ヶ岳の自然の恵みを感じるような滋味深い味でお腹も心も満たされること間違いなし。

 

14:00 サウナとそれぞれの時間

午後になると空模様が怪しくなってきたので、キャビンに戻ることに。息子はベッドでぐっすり。さて、大人の自由時間だ。

僕は、人生初のプライベートサウナへ。少し緊張しつつドアを開け、温度計を確認。「お、いい感じ」……と思いきや、なんだか物足りない。試しに柄杓で石に水をかけてみたら、ジューッという音とともに水蒸気が立ち上がる。一瞬で視界はモクモク、あの“よく知るサウナ”に早変わりした。

暑さと冷たさを感じる——ただそれだけのはずなのに、体にまとわりついていた重だるさがすっと抜けて、身軽になっていく。サウナでは、あれこれ考えるのではなく、「暑い」「冷たい」そのシンプルな感覚に、ただ身をゆだねてみてほしい。

すっきりとした気分でキャビンに戻ると、妻もじっくりと本を読む時間がとれたようで、ご満悦の様子。こうして大人のひとり時間をプレゼントしてくれた息子にも、ちょっと感謝したくなる。

 

17:30 特製ハヤシライスと、最後の夜

キッチンに立ち、特製ハヤシライス作りにとりかかる。
最近ハマっているレシピで、今夜は蓼科牛を使ってちょっと特別に仕上げるつもりだ。

その間、妻と息子はテラスで森林浴。風の音に耳をすませながら、それぞれの夕方を楽しんでいる。

今夜は、2泊3日の最後の夜。
〈たてしな自由農園〉で買った山葡萄ジュースで、家族そろってささやかに乾杯した。ハヤシライスは、蓼科牛を使ったこともあって、いつもより全体のバランスがよく仕上がった気がする。この一皿も、前回の滞在で作ったハンバーグに続いて、きっと記憶に残る味になるだろう。

 

夕ごはんのメニュー

  • 蓼科牛を使ったハヤシライス

  • サラダ

  • 野菜のミネストローネ

  • 地元産の山葡萄ジュース

 

【3日目】9:00 千年豆腐で蓼科の食文化と出会う

翌朝、〈御射鹿池〉でのひとり時間を終えてキャビンへ戻る途中。ふと車窓に映った〈千年豆腐〉の看板に、「あっ」と思わず声が出た。

昨日〈蓼科食堂やまのいき あめのこえ〉で味わった、あのお豆腐のお店だ。 旅は、こういう偶然があるから面白い。

お店に着くと、店主の小林さんが、蓼科に古くから伝わる保存食〈凍み豆腐〉について熱く語ってくれた。昨日の料理に使われていた食材の背景に、こうして直接触れられるのも、この土地の旅ならではだと実感する。

お土産に〈凍み豆腐〉を手に取る。 手のひらにずっしりと伝わる重みは、きっと食文化そのものの厚みなのだろう。

 

11:00 蓼科ハーバルノート・シンプルズで、旅の締めくくり

お土産を買うならもう1軒、ハーブショップ「蓼科ハーバルノート・シンプルズ」もおすすめだ。店内には、オリジナルのブレンドハーブティーやケアアイテムが並び、その裏手には、自由に歩けるハーブガーデンが広がっている。

晴れていれば、蓼科特有の深い緑に木漏れ日が差し込み、どこか物語の中に迷い込んだような気分になる。 「いつか、こんな庭をつくってみたいな」そんな妄想が、自然とふくらんでいく。

そして歩きながら、ふと考える。北八ヶ岳で見たダイナミックな山肌や、ジャングルのように奔放に生い茂る草木。どちらも“自然”と呼ばれるものだ。けれど、このハーブガーデンのように、人の手がそっと加わることで、心地よく整えられる自然も、また“自然”なのかもしれない。

寒冷地特有の風土が育む食材、八ヶ岳の畏怖を感じる岩肌、手に取れるような草花——。そのどれもがひとくくりに“自然”と呼ばれるだろう。だが、本当に自然に任せればそれでよいのだろうか。どこまで人の手が入り込めば、心地よい自然になるのか。そんな答えのない問いを、風に揺れるハーブたちが、静かに投げかけてくる。

ハーブティーやバームをいくつか手に取り、たっぷりとお土産を抱えて店を出た。

 

みちくさスポット

📍千年豆腐(小林豆腐工房)- Google Map
標高1100mにある昔ながらの手作り木綿豆腐を販売する豆腐店。夏季限定で販売される茅野産青大豆を使用したあおばた豆腐も絶品。他、厚揚げやおから、凍み豆腐など店主の方に調理法を聞きながら選ぶのも楽しい。キャビンでの自炊の一品に、旅のお土産に。

📍蓼科ハーバルノート・シンプルズ- Google Map
蓼科高原の森に佇むハーブとアロマテラピー専門店。開拓農家の木造家屋を改修した店内には、世界各地から厳選したドライハーブやスパイス、オリジナルブレンドのハーブティーが並ぶ。ショップ裏手に広がるハーブガーデンもぜひ散策したい。

 

旅のふりかえり

旅から戻って数日が過ぎた。
家族で2泊3日という期間を旅したのに、不思議とそれぞれに没頭できる時間があった。みんなでいるのに、一人を感じる。一人でいても、みんなの気配がそばにある。そんな感覚だ。

蓼科で出会った風景は、どれも「心象風景」のようだった。 一見、ひとつで成り立っているように見える自然も、実は目に見えないつながりのなかで形づくられている。

最終日の朝に見た〈御射鹿池〉の景色が、その象徴だった。
木々も空も光も、どれかひとつ欠ければ、もはや別の風景になる。それぞれが補い合い、共にあることで、あの美しさが立ち現れるのだ。湖面に映る世界と、自分の感受性とが重なって、ひとつの「心象風景」になる。 

私たちが見ていたのは「自然の風景」なのか、それとも「心の内に広がる風景」なのか。その答えはまだ見つかっていない。 けれどこれからのSANU 2nd Homeでの滞在のなかで、その断片にまた出会える気がしている。

 

text & photo

岩井 謙介(いわい・けんすけ)|東京都出身。2021年に長野・上田へ移住。「スローリビングの探求」「自然との調和」「ケアのある暮らし」をテーマに夫婦で営むショップ『面影 book&craft』の店主。共感やご縁を軸に、国内外のデザインプロダクトや本をセレクトしている。店舗運営の傍ら、編集者としても活動。先祖から受け継いだ計1000平米の畑では、耕さず・農薬も肥料も使わない「自然農」に取り組み、四季のうつろいに寄り添う暮らしを実践中。

 

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